福岡高等裁判所 昭和49年(ラ)99号 決定 1974年12月09日
抗告人
中溝文次
右抗告人は佐賀地方裁判所が同庁昭和四九年(ヨ)第七〇号不動産仮処分事件につき
昭和四九年一一月一二日なした保証額決定に対し抗告の申立をなしたから当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原決定中保証金額として、債務者坂本シタに対し「金一五万円」とあるのを「金六万円」と、債務者坂本正義、同坂本貞人、同坂本茂雄、同坂本友三郎に対しそれぞれ「金七万五、〇〇〇円」とあるのをそれぞれ「金三万円」と、債務者久保伍市、同柳坂和人、同江口栄に対しそれぞれ「金五万円」とあるのをそれぞれ「金二万円」と変更する。
理由
本件抗告の趣旨およびその理由は別紙記載のとおりである。<省略>
よつて、審按するに、仮処分裁判所が命じた立保証額が高額に過ぎる場合は、仮処分申請人にとつて実質上その申請を却下されたのと選ぶところがない結果をもたらすので、仮処分申請人は仮処分のための立保証決定に対し保証額が高額に過ぎることを理由に抗告の申立ができるものと解する。
そこで、抗告人の抗告の理由について考えるに、本件記録によれば、抗告人の本件仮処分申請の趣旨及び理由は別紙仮処分申請の趣旨、その理由記載のとおりであるところ、抗告人は抗告人を原告、債務者坂本シタ、同正義、同友三郎、同貞人、同茂雄を被告とした別紙物件目録(二)記載の各建物を収去して同目録(一)記載の土地の明渡し請求、及び債務者久保伍市、同山田末馬、同永原和行を右と共同被告とした同目録(二)記載の建物のうち当該占有部分からの退去請求につき、昭和四八年一月三〇日、佐賀地方裁判所において、いずれに対しても勝訴の判決を受けていること、これに対し右債務者らが控訴したが控訴審において昭和四九年一〇月二一日控訴棄却の判決がなされたので更に上告中であることが認められる。
もつとも、抗告人は債務者柳坂和人、同江口栄に対しては、その占有部分からの退去を認めた勝訴判決こそ受けていないが、同債務者らは右訴訟の期間中に占有を始めたものと推認されるから前記土地の賃借人たる坂本清一の相続人である債務者坂本シタ、同正義、同友三郎、同貞人、同茂雄において抗告人に対し前記の判決を受けている以上、収去さるべき前記建物の一部の占有者に過ぎない債務者柳坂和人、同江口栄が、抗告人に対抗しうべき独自の占有権原を取得している余地はないものと推認できる。
以上のとおり、抗告人が主張する仮処分申請の被保全権利の存在することの蓋然性は極めて高度で、かつ、仮処分申請の趣旨内容も、結局各債務者の使用を許容するもので執行官保管の公示方法の執行が適正妥当に行なわれる限り、債務者らの蒙ることあるべき損害の発生も狭小と考えられるから、別紙物件目録(二)記載の建物の評価が固定資産評価額において総額九七万六〇〇円であることを考えるときは、本件仮処分を許容するについての立保証額としては、債務者坂本シタに対し金六万円、債務者坂本正義、同貞人、同茂雄、同友三郎に対しそれぞれ金三万円、債務者久保伍市、同柳坂和人、同江口栄に対しそれぞれ金二万円、債務者永原和行に対し金二万円、債務者山田末馬に対し金一万五〇〇〇円とするのが相当である。
よつて、原決定中、債務者永原和行、同山田末馬を除く、その余の債務者に対する立保証額中、右金額を超える部分は失当として取消すこととし、主文のとおり決定する。
(原田一隆 鍬守正一 松島茂敏)